地球の歴史
表紙に戻る

Essay■ 1_103 パルス的事件:OAE 2
Letter■ 短期調査・長い目で
Words ■ パルス的調査をする


(2011.06.16)
  前回は、地層の中で有機物に富む黒色頁岩は、海洋無酸素事件(Oceanic Anoxic Events、OAE)によって形成されることを示しました。そして、OAEは、急激な温暖化によって、深層水の循環が途絶することに由来する可能性があることを、紹介しました。今回は、そのOAEが、いつ、どれくらいあったかのかをみていきましょう。

Essay■ 1_103 パルス的事件:OAE 2

 地球史における気候変動は、長い時間をかけて緩やかに変動していることが読み取られています。緩やかな変動は、昔は今と違って、穏やかな気候変動が起こっていたのでしょうか。「現在は過去の鍵である」というジェイムス・ハットンの言を信じるなら、過去が穏やかな変動で、最近だけ激しい変動というのはないことになります。緩やかな変動は、単に素材や技術の問題による見かけ上のものなのでしょう。
  過去の気候変動を読み取るのは、地層からです。地層は鉱物や岩石片が集まっています。そこには当時の気候の記録が、間接的にかすかな記憶として紛れ込んでいるだけです。ですから、そのような素材から高精度の気候記録を読み取ることは困難なこととなります。現在の技術は、氷床のコアのように気候を記録している成分がよく保存されていれば、非常に高い精度で過去の気候変動が読み取ることができます。素材さえ整えば、それくらいの技術は、今ではあることになります。ちなみに、ここ数十万年の気候は、非常に激しく変動していることを物語っています。
  素材の問題もさることながら、過去の記録は古くなればなるほど、その痕跡は薄れ、素材自体も断片化し、散逸していきます。そんな不完全な素材に対し、高い分解能で読み取る技術は、今のところありません。氷床の記録も古いものでは、堆積構造がゆがんでいたり、変形を受けていたりして、不正確になります。まして氷床の素材は、せいぜい数十万年分しかなく、それより古いものは、手にできません。やはり古い気候は、岩石片や鉱物の集まった地層に記録されていることになります。その地層は、断片的で、不揃いなものです。
  過去の気候変動は、最近同様、激しく変動していたのでしょうが、分解能がよくないため、大雑把な変動としてしか読み取れないのでです。それでも過去の気候の概略は読み取られています。
  ただし、OAEのような急激な異変は、地層に顕著な特徴として記録されているため、短いパルス的な事件として読み取れられています。
  OAEは、中生代に何度もおこっていたことが分かってきました。ジュラ紀、そして特に白亜紀には度々起こったことが分かっています。ジュラ紀には、明瞭なもの(トアルシアンOAEと呼ばれています)が一度と、不確かなものが3つあります。白亜紀には10回ほどのOAEが見つかっており、それぞれに名称がつけられています。また一度のOAEと考えられていたもの(OAE1と呼ばれているもの)が、実は4回の事件からなることもわかってきました。
  OAEは、黒色頁岩の堆積や、生物相の変化などから、数万年から100万年の期間での事件であったことがわかります。ただし、100万年間ずっと無酸素状態であったとする説や、数万年単位の無酸素事件が何度も繰り返されていたという説もあり、決着はみていません。
  中生代はもともと温暖期で、中でも白亜紀前期(約1億年前)がもっとも高温の時期であったと考えられています。現在より平均気温で15℃ほど高かったと推定されています。OAEは、中生代が温暖期であるにもかかわらず、さらなる急激な温暖化が起こったことを意味します。どのような原因によるものだったのでしょうか。それは、次回です。


Letter■ 短期調査・長い目で 

・短期調査・
晴れたり曇ったりの天気が続きます。
もう、肌寒さはなくなりました。
蒸し暑さを感じる日もあります。
でも、北海道が一番いい季節でもあります。
本来であれば、野外調査に出かけたいところですが、
授業ノルマの厳しい現状では、
なかなかそうもいきません。
私は、長期にわたる野外調査を研究手法としなくなったので
論文を書くことはできますが、
他の地質学者にとって、
野外調査が夏休み以外できないのは
死活問題になることもあるでしょう。
それでも、研究者はなんとか調査をこなしています。
もちろん他の分野でも野外調査を
手法としている人も同じような事情を抱えながら
研究をしていることと思います。
まあ、あまりグチをいっても解決にはなりません。
私は、夏休みに短期間、野外調査に出かけることにします。

・長い目で・
学生たちの学校での教育実習の山場は過ぎました。
ただし、まだ実習を続けている学生もいます。
遅い学生では、採用試験の直前まで実習をしています。
試験へのハンディが大きいのですが、
教育実習は必修であること、
受け入れ小学校の希望によって日程が決まるので、
まがままは言えないのがつらいところです。
でも、教員を希望するということは、
将来を長い目で見る必要があります。
数年後に結果として教員になっていればいいのです。
その間、非常勤教員として経験をつむこともできます。