地球の歴史
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Essay■ 1_85 年代の意味:最古の岩石4
Letter■ 悩みぬく科学者・冬に向かって
Words ■ 科学者の良心をこの論文に見ました


(2009.11.19)
  長くなりましたが、いよいよSm-Nd法による年代測定の話になります。年代は、一応得られています。しかし、重要なことは、その年代が何を意味するかを解明することです。その年代の意味と、他の化学成分から導かれる話が、一致しなければなりません。しかし、それがなかなか難しいのです。

Essay■ 1_85 年代の意味:最古の岩石4

 ヌヴアギツク(Nuvvuagittuq)の岩石は、複雑な地質で、なおかつ変形・変成作用を受けているでしたところでした、しかし、この地域では、貫入関係から「偽角閃岩」が一番古い岩石であったことがわかってきました。問題は、どうして年代を決めるかです。ジルコンもみつからず、岩石全体のU-Pb法による年代測定もうまくいきませんでした。
  そこで、いよいよSm-Nd法による年代測定が登場します。「偽角閃岩」のSm-Nd法で測定をしたところ、42.86(+0.96、-3.7)億年前という年代値になりました。変成作用を受けた変斑レイ岩は40.23億年前という年代、ひとつのマグマからできたと考えられる斑レイ岩から超苦鉄質岩は38.40億年前の年代を得ました。トーナル岩と珪長質のバンドは、36億から38億年前の年代を持ちます。
  この地域の岩石には、6億年以上にわたる歴史が記録されていたのです。その歴史を解読しなければなりません。さらに、年代の意味も吟味しなければなりません。
  「偽角閃岩」は、地質関係を裏付けるように、岩石としては、最古の年代となりました。そして、現在のところ地球最古の岩石となっています。ただし、いろいろと考えておくべきこともあるようです。
  まず、「偽角閃岩」の化学的性質は、マントルのカンラン岩から形成されたところまではいいのですが、通常の海洋地殻の岩石(玄武岩や斑レイ岩)と比べて、いくつかの違いがあることを示しています。「偽角閃岩」には、低いカルシウム(Ca)、高いカリウム(K)、高いルビジュウム(Rb)、高い軽い希土類元素(ランタンLa、セリウムCe、Nd、Smなど原子量の小さい希土類元素でLREEと略されています)などの化学的特徴があります。
  これらの特徴のうち、KやRbは、変質や変成作用で移動しやすい元素ですので、もともとマグマが持っていた値を、もはやは示してはいないと考えられます。ですから、変質や変成作用で動きにくい元素に着目して吟味していくことになります。
  高いLREEの濃度という特徴は、マントルからマグマができるときの溶ける(部分溶融)程度が低いことを示しています。しかし、部分溶融程度が低いということは、チタン(Ti)やニオブ(Nb)の少ない含有量とは矛盾しています。高いLREE濃度、少ないTiやNb濃度というのは、列島にみられる火山岩(カルクアルカリ岩)の特徴と似ています。このあたりは、まだ完全に解明されていません。ですから、「偽角閃岩」の年代値の解釈も、はっきりと決着をみていないわけです。
  論文に基づけば、以下のシナリオが描けるとされています。まず、「偽角閃岩」が、冥王代(40億年前以前)に、最古の地殻として形成されます。その地殻は、高いLREE濃度、少ないTiやNb濃度を持つ物質から由来しています。その後38億から40億年前に、斑レイ岩から超苦鉄質岩になるマグマが、現在の海洋地殻をつくったのと同じようなマントルから由来し、「偽角閃岩」に貫入します。36億から38億年前に、「偽角閃岩」の部分溶融に由来すると考えられるトーナル岩と珪長質のバンドが形成されます。
  さて、最古の年代を得ても、なかなか最古ですと名乗りを上げにく状態です。論文を読んでいても、歯切れの口調で書かれていることが気になりました。でも、それは報告している科学者たちが、良識的あることを示しているように思いました。最近の論文は、業績主義が蔓延する中、自己主張をするものが多くなっています。今回の論文も、最古の年代を得られたら、それのみを前面に出し、問題点を見ない振りをすることもありえたわけです。しかし、その問題点を、正面に出し、苦渋しながら、最善の道を探っている姿勢、最古の年代の意味を真摯に追求する姿勢に、私は科学者の良心を見ました。


Letter■ 悩みぬく科学者・冬に向かって 

・悩みぬく科学者・
このような論文では、
年代値だけが一人歩きすることがままあります
しかし、年代値が正しいという保障はありません。
たとえば、年代を決めるために使った核種が
変質・変成作用で移動していたら
その年代は、「見かけ」のものとなり、
本当の年代を意味しません。
その年代がとんでもない値なら
だれでもそう思うのですが
自分の欲しい年代が得られ、それも最古の年代となれば
その年代だけを前面に出したいところでしょう。
しかし、他の元素の分析をしていれば
それらとの整合性が問われるわけです。
年代測定だけを生業としている研究者は、
そのような整合性をチェックすることなく、
年代だけを報告して終わりとすることも多数あります。
しかし、今回の著者たちは、年代以外の他の元素も分析し、
それらの吟味もきっちりとしていました。
その結果、シナリオは提示したが、
まだ不明瞭な部分があるというのが、今回の報告です。
私は、この科学者の良心と
その良心を認めたうえで掲載したサイエンス誌を
立派だと思います。
ひさびさに悩みぬく科学者の論文を読んだ気がします。

・冬に向かって・
遅れていた息子たちの小学校の学芸会も終わりました。
今年は、12月も餅つき大会が大きな行事となります。
家庭でも、そろそろ冬支度が整ってきました。
ところが、天候は、分かりにくい天候が続いています。
暖かい日があったり、寒い日があったり、
雨が降ったり、雪が降ったしています。
それでも着実に冬に向かっています。