地球の歴史
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Essay■ 1_79 広い回廊:メッシニアン塩分危機4
Letter■ セウタ・ドル
Words ■ 思いは遥か中新世の地中海へ


(2009.03.19)
  地中海と大西洋がつながっているところは、ジブラルタル海峡と呼ばれています。この海峡は、狭く、海路交通の要所となっています。アフリカとヨーロッパの接点でもあります。そのため、政治、宗教、軍事などの要ともなっています。このジブラルタル海峡は、メッシニアン塩分危機以降にできたものでした。


Essay■ 1_79 広い回廊:メッシニアン塩分危機4

 現在の地中海は、ジブラルタル海峡を通じて大西洋とつながっています。地図をみると、その海峡は細く狭いものであることが、よくわかります。対岸が近くにあり、肉眼でも見ることができます。海岸には、渓谷のように急な崖となっているところもあります。
  ジブラルタル海峡の海底地形は、水深が286mと深いのですが、幅が14km〜44kmで、長さが60kmにわたって延びています。海水がなければ、まるで狭い回廊のような場所に見えるはずです。
  海水があってもジブラルタル海峡が狭く感じます。それは、地中海に面して、アフリカとヨーロッパの両側に、大きな山地があるためではないでしょうか。海峡の入り口にあたる岩崖を、「ヘラクレスの柱(2本柱とも呼ばれます)」といいます。2本の柱に見えるほど、切り立って見えるということです。
  海岸沿いで山を形成しているのは、ユーラシア大陸(ヨーロッパのスペイン)側では、ジブラルタロックと呼ばれる標高425mの岩山です。アフリカ大陸側には、モンテアチョ山(Monte Hacho)とヘベルムサ山(Jebel Musa)があります。モンテアチョ山はセウタという町にあり、ヘベルムサ山はモロッコにあります。ヘラクレスの2本柱に当たるのは、セウタにあるモンテアチョ山の方です。
  セウタは、モロッコの東にあるスペインの飛び地の領地になっています。地中海の出入り口に当たるこの地は、昔から海洋交通の要所となっています。したがって軍事の要所ともなります。まして、そこに眺めのよい山地があれば、要塞などの軍事施設としても最適となります。じっさい軍の施設が設置されています。
  ジブラルタルは、アフリカとヨーロッパの接点ともなっており、宗教や政治、軍事においても複雑な場となっています。
  さて、メッシニアン塩分危機が起こる以前、まだジブラルタル海峡が形成されていませんでした。地中海は別の地域で大西洋とつながっていました。つまり現在は陸地となっているところが、大西洋との海水交換の道、回廊としてありました。
  回廊は、現在の南スペイン(Betic回廊と呼ばれています)と北西アフリカ(Rifean回廊と呼ばれ2つの海路が開いていました)との2箇所で、大西洋とつながっていたと考えられています。回廊という名称がついていますが、今のジブラルタル海峡よりもっと広い海峡となっていたようです。
  地中海の海底や周辺の陸地の地質を調べていくと、そのような過去の回廊があったのがわかってきました。メッシニアン塩分危機のときに、ジブラルタル近辺では、海水が干上がっていれば出来たはずの蒸発岩類が見あたりませんでした。そして、海があった痕跡を探すと、ジブラルタル海峡以外のところに2箇所も見つかったのです。
  広い回廊が2つもあったのに、なぜか回廊が閉じて、海水が入らなくなりメッシニアン塩分危機が起こったのです。その理由は、次回としましょう。


Letter■ セウタ・ドル 

・セウタ・
「ジブラルタル」という名前は、
「ターリクの山(ジェベル・ターリク)」から由来しているそうです。
「ターリク」とは、イベリア半島に進入した
アラブ人の首長ターリク・イブン・サイードのことだそうです。
古くから、文明の交差する場所であったことが、
ジブラルタル自体の名前からも伺えます。
現在スペインの飛び地領であるセウタを、
モロッコは地続きである自国への編入を求めています。
セウタの歴史を見ると、
カルタゴ人やローマ人、ヴァンダル人、西ゴート族、
キリスト教とイスラム教、
ポルトガルやスペイン、モロッコなど、
さまざま組織が支配を巡って争ってきました。
セウタを例にしましたが、
ジブラルタルは、非常に重要な拠点であるために
このような複雑な歴史があるのです。

・ドル・
アメリカ合衆国のお金の単位は「ドル」です。
「ドル」の単位を、$と表記します。
ただし、$は正式には、
2本の縦線が使われることになっています。
なぜ、2本線が引かれているのかというと、
「ヘラクレスの2本柱」を表すという説があります。
スペインの貨幣は、ジブラルタル海峡から大西洋を渡り、
アメリカ大陸でも使われていた時代がありました。
その時のなごりで、ジブラルタル海峡の象徴として、
Sに「ヘラクレスの2本柱」を意味する
縦の2本線を加えたといわれています。
本当の由来は知りませんが、
このような由来もなかなか面白い説ですね。