地球の歴史
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Essay ■ 1_68 第四紀問題の決着は?:地質時代5
Letter■ 私の意見・メディアの力
Words ■ メディアは話題のニュースだけを伝える


(2008.11.20)
  長くなりましたが、今回で地質時代のシリーズも終わりとなります。最後に、第四紀の扱いに関する現段階の状況をまとめておきます。残念ながら、まだ問題は解決されていません。


Essay ■ 1_68 第四紀問題の決着は?:地質時代5

 今まで述べてきましたように、第四紀のはじまりの定義は、いろいろ変遷してきました。現段階の定義として一番多くの人が支持しているのは、激しい気候変動の繰り返しが始まるときです。激しい気候変動の繰り返しとは、氷河期と間氷期の繰り返しのことで、年代いうと260万年前ころになります。
  「2004」版では、第四紀は新生代の時代区分として、公式には用いないとなっていたのですが、いくつも学会からの要請によって、一時公式に使用が可能として復活しました。しかし、「Concise版」では、境界をどうするかはまだ未定であるとなっています。
  「2004」版では、時代境界を決定していくことに重点が置かれました。ですから、第四紀を考慮しない時代区分は詳細になされています。
  まず、鮮新世(Pliocene)と更新世(Pleistocene)の境界は、細分した時代区分でいうと、ゲラシア期(Gelasian)のはじまりになり、イタリアのシシリー島のモンテ・サン・ニコラ(Monte San Nicola)が模式地とされていて、258.8万年前となります。ここは、時代境界として確定されたポイント(Globale Standard Sction and Point; GSSPと略されています)と認定されているところです。
  更新世は、古いほうからカラブリア期(Calabrian)、イオニア期(Ionian)、タランチア期(Tarantian)となっています。カラブリア期は、イタリアのブリカ(Vrica)が模式地とされていて、はじまりは180.6万年前で、GSSPとなっています。イオニア期は、まだ検討の中で変更の余地があるようです。イタリアのモンタルバノ・ジョリカ(Montalbano Jorica)かヴァレディ・マンチェ(Valle di Manche)、そして日本の千葉県が模式地の候補で、はじまりは78.1万年前とされています。タランチア期は、オランダのアムステルダム駅のボーリングコア(地表から63.5mのところ)が模式で、やはり暫定的で12.6万年前とされています。
  完新世(Holocheのはじまりは、中央グリーランドの氷床のボーリングコア(地表から1492.45mのところ)が模式とされ、1万1700年前で、GSSPされています。
  さて、第四紀問題を突き詰めると、このような時代区分の中で、どこに境界を置くのかという問題にいきつきます。鮮新世と更新世の境界はGSSPで、確定されています。従来の定義に基づけば、第四紀は更新世以降ですから、この境界が第四紀の始まりとしなければなりません。
  一方、多くの人が第四紀の定義として認めている気候変動を基準とすると、ゲラシア期の始まりに置くのがいいことなります。しかし、ここを時代境界にすると、もともと鮮新世であったものを第四紀は含むことになります。もしこの時代境界をそのまま使うと、第三紀と第四紀の両方がゲラシア期を含むことになります。
  このような事情が、第四紀問題として混乱を招いているのです。「2004」版では、混乱を解消するために、GSSPを重視した整理をし、第四紀の廃止となったのです。「Concise版」では、第四紀を復活させたので、再度混乱が生まれているのです。
  第四紀研究国際連合(INQUA)が公式に利用できるように、2008年中に決着をつけてほしいと、IUGS(International Union of Geological Sciences)に申し入れをしています。時代区分の作業は、実際にはICS(The International Commission on Stratigraphy)がおこなっていますので、ICSが検討して、最終的にIUGSが判断するのでしょうが、さてさて、どうなることでしょうか。まだまだ波乱がありそうですね。結果がわかれば、また報告します。


Letter 私の意見・メディアの力 

・私の意見・
私は第四紀に関する部分を研究していませんし、したこともありません。
ですから、部外者という立場になります。
無責任な発言になるかもしれませんが、
利害が関係ないので、客観的な見方ができるかもしれません。
私は、今までのICSが行ってきた膨大な作業や整理を
尊重すべきだと思います。
もちろん、もろもろのしがらみや思惑、
思い入れがあるのも理解できます。
でも、ICSの整理は、合理的で筋が通っています。
私はICSの立場を支持します。
しかしもし、第四紀を廃止するとなると、
やはり混乱は生じることは、必至でしょう。
第四紀がなくなるということが周知されるには、
長い時間が必要だと思います。

・メディアの力・
以前、冥王星が惑星からはずされたとき、
メディアが大騒ぎし、それに対応して、
関連学会や国立天文台などが
理科教育などへの対処を提示しました。
たぶん、新しい学習指導要領に基づいた教科書には
そのような記述かなされるでしょう。
ということは、次世代として子どもたちには
冥王星は、惑星ではないということで
周知がいきわたっていきます。
それを思うと、メディアの力を思い知らされます。
同じように、第四紀が廃止されるということが決定されたら
それが周知されるまで、どれくらいの時間がかかるのでしょうか。
メディアの協力は望めそうにありません。
なぜなら、2004年には一度廃止が決定されましたが、
メディアはまったく話題にしませんでした。
メディアが協力したら、このような新しい科学的決定が、
早く皆に伝わるのにと思ってしまいます。