地球の歴史
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1_8 生命と地球の関わり

(2001年5月24日)
 生命と地球は、決して対立を続けてきたわけではありません。ともに変化してきたのです。地球が生命に一方的に影響を与えたのではなく、生命も地球に影響を与えてきました。地球と生命は共に変化しあいながら、現在に至りました。それが、現在の地球環境なのです。


 生命は、地球の表面に誕生しました。その後、生命は、進化を続け、地球の多様な環境に住めるようになりました。現在、生命は、地表のありとあらゆるところに進出してきました。その様は、地球に対して、生命が戦いを挑み、その結果、自分達の住む環境を勝ち取ったように見えます。しかし、それは地球と生命の織り成す仕組みの、ほんの側面しか見ていません。地球と生命は、もっと複雑に絡み合っているのです。
 生命は地球の各地を棲家として、過酷な環境を克服してきました。このような見方は、局所的、瞬間的には正しいものです。しかし、地球の46億年という長い営みの中で、生命と地球の関わりを見ていきますと、決して生命と地球は対立してきたわけではありません。むしろ共に歩んできたといういべきことも、多数見つかってきました。
 2種の生物間にお互いに影響しあいながら進化していくことを、生物の世界では「共進化」と呼びます。地球と生命に対して、「共進化」という言葉が当てはまるような変化があります。地球と生命の共進化の結果生み出されたのが、今の地球環境なのです。共進化の結果の一つが、大気に残されています。
 現在の地球の大気は、窒素が80%、酸素が20%の成分を持ちます。地球の大気だけ「空気」と呼んで、他の惑星の大気と区別されています。地球と兄弟星とも呼ばれる金星の大気は、地球の大気の90倍位の密度を持っています。金星の大気の大部分は、二酸化炭素(97.4%)で、残りが窒素(2%)で、酸素はほとんど含まれません。火星の大気は、地球の160分の1位の密度しかありません。大気の成分は、やはり酸素をほとんど含まず、二酸化炭素を主成分(95%)として、窒素(3%)を少し含む大気です。
 地球の両隣の惑星の大気は、密度がまったく違いますが、成分は非常に似ています。このような類似は、惑星の起源に由来していると考えられています。金星と火星は、惑星ができた時の大気の成分をそのまま保持し、地球はその成分を変化させてしまったと考えられています。その大気の成分の変化が共進化によるものなのです。
 かつて、地球の酸素の起源は、太陽の光化学反応という説もありました。しかし、他の惑星探査や地球の歴史がわかるにつれて、その説は否定されました。現在では、大気中の酸素は、生命の活動によるものと考えられています。現在も大量の酸素が、植物の光合成作用によって形成されています。酸素は、酸素を利用する生物にとっては非常に有用な成分ですが、利用できない生物には、有害で、毒のように作用します。酸素は多くの物質を酸化させてしまうのです。地球の表面は、現在では非常に酸化的な環境になっています。
 酸化的環境は、地表の化学的状況を変えます。光合成をする生物が大量に発生しますと、海水中の酸化されやすい成分である鉄(Fe)が酸化され、サビとなって沈殿します。その結果、酸化によって形成された岩石、縞状鉄鉱層が、ある時期大量に形成されます。縞状鉄鉱層は大陸の各地に現在地層として残っています。その大部分が約20億年前に形成されたものです。つまり、地球表層は約20億年前に激しく酸化されたのです。その元をたどれば、光合成生物の大量発生なのです。
 その後も酸素はつくられ続け、海の中で酸化するものがなくなると、大気中に多くの遊離酸素がでてきました。やがてその量が20%にも達しました。大量の酸素が大気にできますと、大気の上部にオゾン層が光化学反応で形成されます。その結果、地表へ降り注ぐ紫外線の量が減ります。紫外線はDNAの結合を切ってしまう有害な光線でしたので、生物は海から出れなかったのです。しかし、オゾン層の形成によって、海から陸への進出が可能になりました。そして、陸地にはいたるところに生物が進出し始め、やがて大森林も形成されました。
 植物の光合成が盛んになって、酸素の量が30%を越えると、火災が起こりやすくなるといわれています。火災が大規模に起こると、酸素が消費され、なおかつ酸素をつくる植物が燃えて減少します。大気中の酸素の量は、このようは生命と地球の関係によって平衡状態になっているのです。大森林のなごりは、石炭として私たちに役に立っています。
 地球と生命の共進化がつくりだした酸素、縞状鉄鉱層、石炭、私たちの現在文明はそれを利用することによって成り立ています。大気中の二酸化炭素は、現在0.03%程度です。その値は、以前よりほんの少し増加しました。この変化は、文明が起こした地球へのほんの少しの変化でした。しかし、大気中の二酸化炭素が多ければ、温暖化が起こり、少なければ寒冷化がおこるといわれています。二酸化炭素の量は、現在着実に増加しています。そのため、地球温暖化が危惧されているのです。ほんの些細な変化ですが、最終的には人類にとっては大きな影響となってきます。これも、地球が下した、共進化という結論なのでしょう。